乙女の儚夢
文芸作品なので当たり前といえば当たり前ですが、それでもこの人くらい一瞬でも聴いて好き嫌いが分かれるような人もあまりいないのではないか?というこの人のメジャーデビュー作とのことです。まずレーベルがキングレコード傘下Bellwoodで、同レーベルからははっぴいえんどやはちみつぱいなどのロックと、友川かずき、小室等、三上寛などのフォークが、当時実際お互いの交流という意味でもクロスオーバーなレーベルだったと思われる、そんな所から記念すべきレーベルシングル第一弾となった「赤色エレジー」が出たというのは、なにか筆者的には劇的かつ、このアルバムを語る上で象徴的な出来事として書いておきたいと思います。実際、そこからのデビューLPである本作でもはちみつぱいがロック系曲のバックをつとめており、おそらく音楽オタクも甚だしかったであろう鈴木慶一やメンバーによる演奏と、氏の本気なのか洒落なのか分からないような悲壮感ととぼけたような雰囲気が同居するという類稀なるボーカルとの相性は、もう何年も一緒に演っているバンドのような印象を受けるほど良いと思いますが、じつの所は出会って1〜2年ほどでのコラボだったようです。

そういう背景などより聴いていて思うのは、よく使われるレトリックで申し訳ないですがこれが40年も前に作られたという事に感慨深く、その内容は演劇的小曲(寸劇)などが挟まれる辺りには時代物という雰囲気は感じつつも、その寸劇にも一部感じられますが所々サウンドコラージュとも呼べそうな当時のサウンドエンジニアリング(技術)なりに凝っている部分辺りに昔はこうやって創意工夫などの苦労をして一生懸命音楽を作り上げていたのだろうな、という感動すら覚えます。その点なども含め、聴取者を飽きさせないようなアルバム構成(やはり寸劇を交えるなど)にも彼らなりの誠意も感じます。はっきり言って今現在、これほど文字通り一生懸命、真摯に音楽と向き合って、しかも当時なりに少しひねくれたようなイイ意味でのねじれたセンスを持って、作り上げられたであろうアルバムと見劣りしないようなアルバムを作れる邦人アーチストはいるだろうか…などと少し大上段に構えてしまうほどの名作です。一聴して「嫌い!」と思った人も(また相当前に思った人も)もう一度と言うか、何度か聴いてみて、解かってくるような部分もあるのでは?と勝手に思いますので、機会があれば再度挑戦してもらいたい音楽でもあります。聴かず嫌いはなおさらいけない(経験者談)。

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