a song for youこれから真面目に生きていこうと誓った人の書くブログ
KEMPIRE音楽市場です。
さてリクエストもございましたので前エントリの続き書きます。

そのひなびたと言うよりも、
しなびた旅館に帰ってきた頃にはさすがに辺りは暗くなっており、
経費節減なのか、なんなのか、薄暗い玄関でスリッパに履き替えているうち、
外はすっかり暗くなってしまった。夏の不安定な気流などで、
外はなにやらゴロゴロと雷模様。夕立も激しく降ってきた。

二人はその中に、この後起きる出来事への不吉な予兆のような、根拠の無い不安を感じていた。

風呂は済ませたとなると、後は夕食なのだろうが、何故か二人は既に用意されている
据え膳を、すぐには食べずに、男は縁側のソファーに、女は畳の上でくつろぐ。

何故、お膳を食べないのか。

それはこの後に待っている出来事にとって、そんな事はどうでも良く、
また実際、胃袋に物が入っていないほうが都合が良かったから。

長い沈黙。

もう良いだろうとお膳を下げに来た女中は、その全く手を付けられていないお膳を
いぶかしげに見つめていたが、恐らく他で食べてきたのだろうと、一人合点して、下げていった。
その後は床を作る女中が当然のように現れ、用意をしていった。
自分がひいていったその布団が、あんな事に使われるとは、もちろん知る由もなく。

女中が下がるやいなや、今までの人生はこの時の為にあったのだ、とでも言うかのように、
男はその布団の上に、彼女の方へ向き、膝まずく。

女は、その男の前で仁王立ちとなり、手に持っていた安眠用のマスクを男にしてやった。
男は、安堵の中、しかし不安と期待の入り混じったような深い呼吸を一つした。

女はおもむろに、既に持っていた鋭利なサバイバルナイフを男の背中側、心臓の裏側に突き立てる。
男はたまらず、悲鳴を上げるが、それは苦痛からと言うよりも、喜びの余りの歓喜及び狂喜の声。

再び、いや、幾度も、主に上半身を中心に、幾度も幾度も抜いては刺し抜いては刺しする女。
その度に女の顔や全身に返り血が浴びせられる、その顔には笑いも悲しみもなく無表情であったが、
その滴る鮮血のせいで、なにか動物的な輝きを帯びていった。
最初のうちは声を上げる男であったが、それも徐々に弱々しくなっていき、最後には無言となる。

女は、無表情ながら、なにかをやり遂げた満足感と、その微かな輝きを持った顔で、
膝をついたままぐったりと女の方に寄りかかってくる一人の男を重そうに支えながら、
しかし慣れた手つきで、死体を布団です巻きにし、用意していたロープでぐるぐる巻きにしてから、
部屋を立ち去った。

それでいいんです。両者合意の上、最後に二人の顔には満足と恍惚の表情が浮かんだのですから。

終わり。(俺バカかな?)

Goodbye To Love / The Carpenters